東京都の県庁所在地についての3つの見解【都庁公式・帝国書院・平凡社地図出版】

東京の県庁所在地

元都庁職員のイクロです。
今回は、「東京都の県庁所在地」についての疑問に答えるために、東京都の公式見解と地図帳を出版している帝国書院・平凡社地図出版による見解をまとめました。

  • 地図には、東京都の県庁所在地は「東京」って書いてあった気がする
  • でも、都庁があるのは新宿だな…
  • それなら、東京の「県庁所在地」って結局どこなの?

こんな疑問がスッキリするよう解説していきます。

都庁「都庁の所在地は『新宿区』」

まず、東京都庁の公式見解はどうなっているのか見てみましょう。東京都政策企画局のWebページには下記通り記載されています。

  1. 都道府県庁の位置は、条例でこれを定めるよう、地方自治法で定められている。
  2. 東京都では「東京都庁の位置を定める条例」により、東京都新宿区西新宿二丁目と定めている。
東京都の県庁(都庁)所在地について|その他の情報|東京都政策企画局

ここでは、「県庁所在地」という言葉が持つ教育的な含蓄にはあえて踏み込まず、あくまでも都庁というものの位置を「東京都新宿区西新宿二丁目」と述べるにとどめることで議論を予防するような書き方がされています。

その意味で若干煮え切りませんが、少なくとも、東京都による公式見解は「東京の県庁所在地は『東京』」ではないということは言えるでしょう。

帝国書院「新宿区は都市ではないので『東京』」

次に、東京の県庁所在地を「東京」とする見解を見てみましょう。以下は、帝国書院のWebサイトからの抜粋です。(ハイライトは当記事の筆者が追加したものです)

東京都の「東京都庁の位置を定める条例」では、都庁の位置を「東京都新宿区西新宿二丁目」と定めています[中略]。しかし、地図帳における都道府県庁所在地は、都道府県の役所が置かれている「都市」としての意味合いが大きいといえます。

[中略] 東京の区はほかの政令指定都市の区と異なり、区長が選挙で選ばれたり、区教育委員会・区立小中学校があったりと、市町村の機能の一部をもっています。[中略] 一方、(1943年まで存在した)東京市がもっていた市町村としての主要な権限(上下水道の設置管理、消防等に関する権限、法人税・固定資産税の徴収権など)は(東京都制施行も)東京都がもつことになりました。また、東京都知事は「東京都の知事」であると同時に「東京23区全体の市長」としての権限ももっています。こうした理由から、新宿区をはじめとする東京23区は、各区が単独で市町村と同格にはなりません

このような経緯や背景もふまえて地図帳では、国土地理院の地形図(1/20万)なども参考に東京23区をひとまとまりとしてとらえ、慣習的に用いられている「東京」の名称で記載するようにしています。

社会科Q & A − 地図・地理

東京都政策企画局による記載を受けての説明にも思える内容です。要するに、「地図帳における県庁所在地は都市としての意味合いが強いが、新宿区は都市ではないので、慣習的に「東京」としている」ということです。

ここでは、「都市=市町村」という前提で話が展開しています。そして、新宿区(をはじめとする東京23区)が上下水道の設置管理などの市町村としての主要権限を持たないことや、東京都知事が「東京23区全体の市長」としての権限も持っていることから、東京23区は単独で市町村と同格ではない(=都市ではない)とし、このような経緯や背景もふまえて東京23区をひとまりまりに「東京」としている、とのことです。

地図帳で「東京」と記載されることが多いことの背景はわかりますが、「都市=市町村」という前提自体にやや疑問が残るようにも思えます。

平凡社地図出版「スペースや教育など観点で『東京』」

次に、平凡社地図出版の見解を見てみましょう。

なぜ多くの地図帳は新宿区ではなく、東京にしているのか。 

弊社では都庁の記号のみで「東京」とは基本的に記載しておりませんが(日本全図など小縮尺図においては、首都として「東京」と記載しています)、東京23区を1つの市とみなすことで、地図上のスペースの問題、都道府県名と都道府県庁所在地名の教育や統計等の対比の面で都合が良くなるからです。

平凡社地図出版-地図雑学,Q&A その5

地図帳として都合が良いからという理由が述べられています。この見解は、そもそも地図帳が主に教育の場面で使われることが多いことを踏まえたものと言えるでしょう。

小学校などで県庁所在地を覚えるようなシーンでは、単に位置情報を記憶するというよりは、県庁をはじめとした主要機関が所在するような各都道府県の中心地を把握するといった含みも持つように思います。県庁所在地の英訳に”the prefectural capital(県都)”があることにもそれが現れていると言えるでしょう。そう考えると、東京では、都庁や都議会は新宿にあるものの、「東京の中心地は新宿区である」とは言い切れないため、「東京の県庁所在地は新宿」というのは意義が薄いと言えるかもしれません。

東京都の県庁所在地まとめ

東京の県庁所在地に関する3つの見解を紹介してきました。まとめると、「都庁が位置するのは『新宿区』。ただし、地図帳が持つ教育的意義(ならびに歴史的な経緯)を踏まえると、『東京』とするのも一理ある」ということになります。